『ゼロ・トゥ・ワン』ピーター・ティール

「あいまいな楽観主義」によるリーンスタートアップを否定し、独占こそ成功企業の前提とする、逆張り投資家ピーターティールによる著書で、隠れた真実に基づき、技術的なブレイクスルーで世界を変える企業の作り方を指南している。

 

著者を「尊敬の念をおかざるを得ない存在」と称し瀧本哲史が序文を寄せている。序文僅か数ページに著者の紹介と共に本書の概論が記されており、それだけで読了に等しい十分な情報提供を受ける。

 

冒頭通常通り、著者立ち位置の説明から始まる。

「原始農耕から…一万年断続的な進化を経て、いきなり1760年の蒸気機関の発明から1970年頃までの間に新たなテクノロジーが発明されて…想像できないほど豊かな社会を受け継ぐことになった。…」そして「…このまま進化が続くはずだと考えられていた。…でもそうはならなかった。」そこで「君が世界を変えられると、君自身が説得できる人たちと集まり…スタートアップ」することが必要となる。そのために「ここに書いたことはマニュアルでもなければ、知識の羅列でもない、考える訓練だ。…従来の考え方を疑い、ビジネスをゼロから考え直そう。」というのが著者のスタンスである。

 

90年代、シリコンバレーはドットコムバブルに沸いて崩壊した後、大きな歪みを残した。

それは

・「少しずつ、段階的に前進すること」

・「リーンであること(計画しないこと)」

・「ライバルのものを改良すること」

・「販売ではなくプロダクトに専念すること」

しかし、そのいずれもが間違いであり、逆張りこそ真実であるという。なお逆張りは、大勢の意見に反対することだけではなく、「自分のあたまで考えること」をいう。

 

経済学上、市場は「完全競争市場」と「独占」に大別される。そしてその中間線上に全ての企業が存する。面白いことに独占企業は、自らの独占を隠し、競争企業は自ら市場を独占しているかのように考える。完全競争下の企業は目先の利益を追うのに精一杯で、長期的な未来に備える余裕はない。独占はよりよい社会の原動力となり、進化を生み出している。市場は古い独占と新しい独占の交代の場であって、歴史はそれを重ねてきている。競争とはイデオロギーであり、お題目であり、市場を破壊するだけの力なのだ。

 

プレイヤーになるためには先手必勝、先行者利益、ファーストムーバーアドバンテージと言われる。しかし将来のキャッシュフローを創出することのほうが大切だ。そのためには、

・グーグルのアルゴリズムのような、まねできないプロプライエタリー・テクノロジー

・みんなが使うフェイスブックのネットワーク

・ツイッター社のユーザー数のような規模の利益

・アップルのようなブランディング

が終盤を制する鍵(ラストムーバーアドバンテージ・特定の市場で一番最後に大きく発展してその後何年も独占的利益を享受する)に繋がる。

 

ビジネスの成功は運か実力という命題に本書では後者と答える。

未来はどんな姿かを描くかを4タイプに分類し、現在のアメリカは1982年のレーガノミクス(右肩上がりの相場)(アベノミクスの元ネタ?)以降、あいまいな楽観主義が蔓延し、

・あいまいな金融の下、分散投資が行われ

・あいまいな政策の下、世論調査への気配りだけで、意志決定され

・あいまいな哲学の下、善き社会像のないまま、自由を最大化し、

・あいまいな人生の下、生命の秘密をと解くことを保険会社と統計家は寿命表を作図しただけで、了とし、バイオテクノロジーは自然理解度が低いままのランダムアプローチによって非効率な研究結果しが残せないでいる。

そう、起業は人生をコントロールできる大いなる試みであり、「偶然」という不公平な暴君を拒絶することができる有用なツールである。

 

重要な法則がある。「複利」と「80-20の法則」である。これら二つの法則は「僕たちの住んでいるのは正規分布の世界じゃぁない。僕たちはべき乗則のもとに生きている」ということを教えてくれる。ベンチャーのリターンは正規分布ではない、一握りのスタートアップがその他全てを大幅に上回るリターンを叩きだしている。また、人生はポートフォリオではない。なにより自分を分散して投資できないから。あるいは学校教育も画一的な教養を配るだけで、非実践の世界に陥っている。残酷かもしれないが、「ひとつのもの、ひとつのことが他のすべてに勝る」ことを心に留めておくべきだ。

 

概ね、スタートアップの仲間はビジネスの域を超えた関係性にあり、強い文化的つながりをもった部族的関係に立つ。

・共に働くことに興奮し

・オタク気質で、しかも同じアニメを嗜好するような者同士で

・外部からは一見、カルト的と称されるほど。

 

その他、営業、シンギュラリティー、クリーンエネルギーの失敗、創業者等についても語られている。

瀧本哲史文脈で読んでも面白いだろうし、文脈とおりスタートアップ、ビジネス視点でも有意義である。未来とイノベーションに対する重心が大胆であり、そこがユニークである。最近ではトランプとの関係から論じられたり、損保ジャパンと日本版のパランティアを創業したり、と目が離せない。