『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健

哲人と青年の対談形式で話が進み、その都度都度で青年がメンターポジションの哲人に食って掛かって反論を重ねながら、その思考の流れをたどり、アドラー心理学の教えを理解する。メンターの教えが斬新ながらも、読者は青年に自己投影しやすい。著者は二人、哲人役の岸見一郎と青年役の古賀史健。前者は学者的人物であり、アドラー専門家。後者はたぶんライターで、本書の構成や執筆を実施的に担当していると思われる。古賀氏は様々は著作物でライターとして活躍しており、物書きの専門家である。2013年の初版以来継続して売れている。

本書は、フロイドユングに並ぶ三大巨頭のアドラー心理学を記しており、学問のための学問でなく実践的である。名著カーネギー『人を動かす』やスティーブンコビー『七つの習慣』に影響を与えたとされる。トラウマを否定し、過去に否定されない現在を問い、すべての悩みは究極的には対人関係とし、自己の内面の悩みは無いとする。他人からの承認欲求を否定し、他人と自己の課題を分離し、本当の自由を求めている。対人関係のゴールを共同体感覚とし、共同体の中で、自己受容し、他者への貢献を通じて、幸福を得るものである。それは、①現状認識②問題の抽出③解決方法の提示④目指すべきものと順番に追って語られる。

ポイントはトラウマを否定する「目的論」、対人関係の悩みを解決する「課題の分離」ゴールとしての「共同体感覚」この三つ。

 目的論では、青年はひきこもり状態にあるとき、過去のいじめが「原因」になって引きこもりをしている。とは認識せず、青年が引きこもる「目的」のため、過去のいじめを利用しているとする。行動は目的に従っており、目的はその都度都度で人が便宜上利用しているにすぎないとする。いま、仮にあなたが不幸であったとしたら、それはあなたが選んだもので、いろいろ不満であったとしても、「このままのわたし」であることのほうが楽であり安心なのだと。

 すべての悩みは対人関係にあり、他者との関係の中で傷つかないことを求めており、劣等コンプレックスは他者と競争の中で、生まれる。その解決に、他者からの期待を満たすために生きることをやめ、承認欲求を否定し、他者からどう見られるかという課題を分離し、自分の信じる最善の道を選ぶこととする。本当の自由とは、他者から嫌われることを恐れず、承認されないコストを支払い、自分の生き方を貫くこととする。

 では、社会との関係は?最後に展開されるのが、「共同体感覚」。アドラーは対人関係のゴールを共同体感覚とする。他者を仲間とみなし、そこに居場所があると感じられること。(一気に抽象度が高くなり、理解が感覚的に難しいが)自己への執着(self interest)を他者への執着(social interest)へ転換し、自分は世界の中心ではなく、世界の一部であると認識する。より大きな共同体に属する感覚が肝要であり、他人をほめたり、しかったりせず、評価しないこと。縦ではなく、横の関係の中、「ありがとう」と感謝の言葉を聞いたとき、他者に貢献でき、勇気が得られると。

 なにやら最後の結論では倫理的で模範的に過ぎるかと思われるが、人間の幸福感とは最終的そのような形をしているのかもと予感めいたいものもする。