
1.著作
「新・観光立国論」デービット・アトキンソン 2015年6月第1刷
2.著者
デービット・アトキンソン 1965年イギリス生 元ゴールドマンサックスアナリスト
3.内容
「新・観光立国論」
経済指標上、GDPと人口には強い相関関係があり、人口減少社会の日本は成長しずらい国になっている。この先GDPを押し上げる為には、拒絶反応の強い移民政策ではなく、実現性の乏しい生産性の向上やウーマノミクスでもなく、短期移民、即ち外国人観光客である。GDPの9%という目安を達成できれば観光が国を支える基盤となり「観光立国」と称することもできるが、現在の日本は0.4%と極めて低水準である(2013年データ)。国際観光客到着数と国際観光収入のデータによれば、フランス、アメリカ、スペイン、イタリアが軒並み上位にあり、日本は20~30位に留まる。アジアでは中国(香港、マカオ)タイが世界に認められた観光立国と云える。観光立国と云える為には、1.気候 2.自然 3.文化 4.食事 の4条件が重要であり、ほどほどの過ごしやすい気候、動植物を含む豊かな自然環境、過去と現在の文化、そしておいしい食事とされる。現在の日本の観光産業は観光業を下に見ていた社会観より、リソースの投入が不十分であり、外国人を少なからず遠のけてきた文化社会背景も手伝い、未成熟にある。多くの日本人の観光に対する認識は誤謬と的外れに満ちており、日本人がアピールする「気配り」「マナー」「サービス」「治安の良さ」「交通機関の正確性」は海外から求められている「歴史的名所」「京都の寺社」「伝統体験」「食事」「自然」とミスマッチを起こしている。このミスマッチの最大のものが「おもてなし」である。おもてなしは国内では通用するが、対外国人では通用しないとされ、観光の動機付けには成らず、日本人が考えるほど外国人は日本のサービス品質の優位性を必ずしも認めていないことがデータ上もはっきりしている。そこで、「質の高い観光客」の声に耳を傾け、彼らがお金を落とせるインフラ、コンテンツを整備することが必要と主張する。「質の高い観光客」とは上客であり、超富裕層を示す。特に、近くの国(アジア圏)ではなく、遠くの国(ヨーロッパ、ロシア、オーストラリア)から長期の滞在で訪れる外国人。彼らに、高級ホテルに滞在してもらい、高価格帯のサービスを提供し、文化財を、富士山等を独自の観光ロジスティックスで回って貰うことが肝要とする。そのために周辺設備として、地域デザイナー、ガイド、他言語対応、町並み整備等やるべきことは多々あるとする。観光は一大産業であり、日本は観光立国として大成できるいちにいるとしている。
4.反論
「観光立国」すべきか否かという点で反論を加えてみる。
観光立国へ進み、多くの外国人が押し寄せてくることになると、どのような問題が生じるだろうか?ゴミの放置やマナー面でそれを重視する日本人との接触で違和、衝突、軋轢が生じる。それが常態化すれば、日本人のマインドに歪みが生じ却って観光立国促進阻害要因を内側に醸成してしまう。
また、新型コロナウイルスによりパンデミックが引き起こされ国境が世界各国で封鎖されている現状では、今後、観光が国を、世界を支える産業の一角を成すとは言い難い。著作された2015年時点では想定できない状況ではあるが、パンデミックを乗り越えない限り本書の主張は成立しえなくなっている。
著者の現在の立場から文化財の有効活用はポジショントークと言われても仕方ないこと。