世界のありかた

歩き始めると長男は、あらゆる誘い言葉に耳を傾け、いちいち反応しては答えて、会話をしている。それは友達に、父親に語りかけるように、風に語り掛け、落ち葉と舞うように遊ぶ。境界は曖昧模糊として、対象物と自分の違いさえ、不明瞭だ。道路から伸びる道路標識の鉄に、秋の色を纏ったススキに、手をさしのべ、ひとりごちては、歩みを進めている。しかし、現実は冷徹だ。時計の針はもう7時半を十分に超えている。やむなくも急かすように促す。遅刻するぞ。現実はジワリジワリと彼の自然と調和した世界を犯してゆく。今は登校中。八時までには学校に行かないと先生に怒られる。彼はやがて無口になる。太陽が近づいてきた。桜坂を駆け上がるとまぶしい光が差し込み、全てを引き揚げた。