
鯉は長寿だという。数十年はもとより百年を超えるものもいるという。例えば今日のような良く晴れた日。普段は誰も近寄らない裏山のひっそりした池。その底で真っ黒な巨体を泰然と揺らせ、ゆっくり胸びれを動かす。時に尾鰭を瞬間にはたき、行き先を変える。鼻もとから伸びた二本の髭は先を知る為である。そのことは誰も知らないという。その姿を見た人は更に少ないという。そうやって百年も生きながらえている。主とはそういう生き物である。子が十を数えれば、めおとも十を数える。十年の鯉は池の端でたゆたう。その底で百年の鯉が見つめている。