H先輩を囲む会

この日の月もまんまるであった。迎えにきてくれたK君は「昨日、満月だったみたいですよ」と云ったが、昨日はムラ雲に隠れて見えなかったと返し、加えて、今日の月は格別でなんだよと云ったが、それは弱い月の光でさえ照らし出されてしまう粗ばかり目立つ会話であった。この夜はH先輩を囲む会が笹元で行われた。独身のH先輩は製薬卸のリーマンで40歳弱まで鴨川で例の団体を通しての浅からぬ関係を築かせてもらった。H先輩はもう46歳にもなんなんとするのに独身を通しており、この先の予定も未定である。そんなH先輩のことを皆が皆心配してしており、自分のことのようにH先輩の将来にプライベートについて、ついつい立ち入った発言を重ねる。「どーしてあの時、婿に入らなかったのですか?」「H先輩、クリスマスはなにしてたのですか?」「H先輩好きな人はいないのですか?」「H先輩、これからどーするのですか?」H先輩を囲む会とはそういう会である。しかし本人は全く意に介さず飄々としている。だからH先輩はみんなに愛されている。そんな、H先輩。困ったことに最近メルセデスに乗り始めてしまった。益々我々は心配になってしまう。その先には何があるのだろうかと。この日はさらに若き日に大喧嘩したT君まで宴席に来てくれて、益々楽しくなってしまったので、ついつい先走ってしまい、もう鈍つまりの先細りになってしまったので、迎えに来てくれたK君に無礼を詫び先に帰宅することにした。