
暗い森から現れた四肢のない躯は暗闇の中で輪郭もはっきりしない。細長い赤い舌をぺろりとしたあと太くて短いとぐろを巻いたようでもあった。鋭い眼光輝く目玉を細長くぎょろりと剥いている。僅かに光る眼光のせいで此処が暗闇なのだと分かった。勿論、行き先なぞ分からないのだが、此処が何処なのかさえ我々に分からないので、ここは水先案内人に付き従う。暗い森は何処まで進んでも暗く、目を細めれば微かに白く道のようなものが浮かび上がるのだがそれを信頼すべきかは分からない。ここは自らの不確かなものより、何者かが分からなくても確固とした歩みを続ける者に付き従うことが、(勿論もうそれしか選択肢はないのだが。)唯一の方法になっていた。一歩の歩みは進めても、その先は分からない。もう何時間も歩き続けて、寒さも増し、何よりも気を張ったせいで眠くなってしまった。そして眠ってしまった。ふと、気が付くと柱時計は2300を過ぎているのに空は白々と明け始めていた。もう、その頃にはあの暗い森から抜けていて、四肢の無い躯の者はいつしか見えなくなっており、きっと明日には晴れやかな道が開けているに違いないと何故か確信出来ていたので、安心してもう一度眠ることにした。