朝霧

七夕の夜が明けた朝、天は雲が覆い、地は霧が覆っていた。空気は水分と短冊の願いで飽和状態であり、暖かくも粘着している。不意に、目の前の空気を両手でおっぺせば、魔法のように空気から水がこぼれそうなほど。暗闇の先を走るヘッドライトは視界を確保しようと躍起に目を見開き、エンジンは溺れそうな朝の空気の中で必死にもがいている。何かが生まれてくるのは丁度いい朝だと、うそぶいてみる。例えば地球、45.4億年前のその朝。例えばあめつち、混沌が陰陽に分離したその朝。例えばあなた、親と兄弟に祝福されて、猿みたいな顔で生まれたその朝。例えば、自己との格闘の末、疲れて眠り込んで明けたその朝。例えば、自己の無力さを痛感して、再び眠り込んだが寝なかったその朝。例えば、全ては今から始まると時計の針を巻き戻したその朝。例えば今朝、なんでもない、いつもの朝。何にも生まれなくても、いつもの朝がやっぱり一番の朝だと勝手に思っている。