夕景

1800過ぎに帰宅したら長男が上に行こうっていうもんだから、付いて行く。雲の多い西の空に太陽が沈み始めていた。何本かの用水路が集まり水が溜まる枡の中に顔を向けては、見てよと甘く誘う。気が乗らずに曖昧に返事をすれば今度は大きな声で「見て!」と強要してくる。何がいるわけでもない。道路の端、側溝のフタの上を律儀に歩き、こちらが真ん中を歩こうものなら、そこはあぶないでしょ!こっち!なんて手招きしてくる。

どんさかをのぼり、うえんはらに付く頃、西の空はさっき以上にオレンジ色を増し、屋根の上ではカラスが西を向き、来し方行く末を想うか。これが黒いカラスでなくて極彩色の鳳凰で、農家の屋根ではなくて京都の平等院なら、ここらも浄土みたいだな、なんて思いながら。

市道から草だらけの畦に降りてゆき、「あのね、じじのたんぼみたかったんだよね。たんぼ大きくなったかなって。」とか。歩を進めては草の中雲散してゆく小さな蛙を見ては「緑のかえると茶色のかえるがいる。」って殆ど、誰にいうわけでもなく、ぶつくさぶつくさ、ひとりごちている。

いつまでも、何をする訳でもなく立ったり座ったり、あっちへこっちへとしている。あしたもあるから、もう帰ろうよと、せかして漸く折り返し地点を作った。1900に近づいている。光と影のたんぼシアターはクライマックスを迎えていたが、僕らはそれらに背を向けて、家路を急いでいた。